
オーケストラって何十人もいるけど、そんなに必要?

オーケストラの人数って決まってるの?
アンサンブルとの違いって何?
オーケストラはなんとなく「弦楽器と管楽器が一緒になって何十人かいる団体」というイメージがありませんか?
あまり音楽に詳しくない人は「クラシック音楽を演奏する集団」と漠然としたグループを想像するかもしれませんね。
そんな悩めるオーケストラ創立メンバーの方も、名前を決める時の参考になれば嬉しいです!
今回はオーケストラの語源や定義から紐解き、オーケストラの人数についてご紹介していきます!
・オーケストラの定義
・オーケストラの人数と楽器
・オーケストラの語源
・楽器それぞれの人数
・作曲家ごとのオケの人数の目安
「オーケストラ」の語源は古代にさかのぼる!

オーケストラとは、ギリシャ語の“ορχηστρα”に由来するといわれています。
文字がギリシャ語なのでとまどってしまいがちですが、”ορχηστρα”(オルヒストラという発音)は皆さんご存じの英語”orchestra”のことですね。
もとを辿ると古代ギリシャ時代の劇場で、演者や合唱の舞台とお客さんとの間にある半円の場所を指す言葉だったそうです。(上の画像参照)

「オーケストラ」とは、舞台の前で演奏する場所(現在のオーケストラピット)のことだったんだね。
それが時を経て言語現象とともに、楽団そのものを指し示すようになったのでしょう。
日本語でも、「鍋を食べる」の表現があります。これは鍋の中の食べ物を食べるのであって、金属の鍋そのものを食べるわけではないことが分かりますよね。
何語であっても共通するのが言語の面白いところ。
「伝わるよね」という共通認識のもと、省略して言葉を使っていると、いつの間にか劇場のある場所→楽器隊へと意味が変わってしまったのですね。
(筆者は言語学も専攻していました。笑)
話が逸れました!
「オーケストラ」という言葉はギリシャの劇場が失われてからもなお生き残り続けました。
日本へクラシック音楽が流入してくると同時に、西洋スタイルの合奏楽団を「オーケストラ」と呼ぶようになったのですね。
オーケストラの最小・最大人数は決まっていない?!オケの人数

オーケストラは「合奏する集団」を指すと分かりましたが、何の楽器が何人いればオーケストラと呼べるのでしょうか?
実はオーケストラの人数や明確な楽器編成は決まっていません。
大体10人以上からオーケストラと呼びますが、小さな楽団はアンサンブルと呼んだり、室内楽だったりと様々な呼び方をします。
古典派のモーツァルトやハイドン時代のオーケストラは多くても30人程度。
一方マーラーやワーグナーなどの時代のオーケストラは150人以上も必要です。

中には「1000人の交響曲」という曲もあって、合唱と合わせてその名の通り1000人で1曲を演奏するんだ!
おおよその人数による呼び方はこんな感じ。
一般的な名称 | 人数 | 呼び方① | 呼び方② |
デュオ | 2人 | ↑ | |
トリオ | 3人 | ↑ | |
カルテット | 4人 | アンサンブル・室内楽 | |
クインテット | 5人 | ↓ | (室内・小規模)オーケストラ |
セクステット | 6人 | ↓ | ↓ |
セプテット | 7人 | ↓ | ↓ |
オクテット | 8人 | ↓ | ↓ |
弦楽オーケストラ・弦楽合奏 | 10~35人 | ↓ | ↓ |
吹奏楽 | 10~100人 | ウインドオーケストラ | オーケストラ |
管弦楽団 | 15~無限 | オーケストラ | ↓ |
見て分かるように、数人以上はほとんど全て「オーケストラ」といえるのです。

ある室内オーケストラに行ったら、6人だったことがあるよ!
「楽器を演奏する集団」がオーケストラなので、弦楽器だけ、管楽器だけでもオーケストラと呼ぶことは出来ます。
ただしこの場合は弦楽オーケストラ、吹奏楽(ウインドオーケストラ)と呼ぶことが多いです。
楽器の人数

ここから先は一般的にいわれるオーケストラの楽器と人数についてお話していきます。(先ほどの表の1番下の管楽器と弦楽器がいる「オーケストラ」にあたります!)
弦楽器
弦楽器はオーケストラの中で1番人数の多いパート。
主にヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスで構成されます。
プログラムノートなど曲紹介でパートを紹介するときは、まとめて「弦五部」と呼ぶこともあります。
ハープやクラシックギター(アコースティックギター)も弦楽器に入るため、必要に応じてオーケストラに加わることがあります。
ヴァイオリン
特に発足仕立てのオーケストラは人数が集まらないので、1st6人、2nd5人で頑張るか!なんてこともあります。
後述の曲の規模によって大きく人数が変わりますが、融通が利きやすい楽器ともいえます。
小さな音を出すのが得意な楽器なので、人数が基本的に何人いても困ることはありません。
ヴィオラ
ヴィオラもヴァイオリンに次いで人数が多い楽器です。
ヴィオラからコントラバスまでは、それぞれ1つずつのパートです。
ヴィオラは内声を担当するためあまり音量を出しても目立たず、人数が多くても困りません。
しかしヴィオラは楽器人口が少ないのが現状。
音大ではヴァイオリンの学生がヴィオラも担当することがほとんどです。
ヴィオラはヴァイオリン経験者も多く、その逆もまた然り。
そのため、ヴィオラ集めに苦労している際はヴァイオリン奏者にヴィオラも弾けないか聞いてみるのも一つの手ですね!
チェロ
チェロは3人〜10人が一般的。
高音域よりも人数は少なくなってきます。
コントラバス
コントラバスは2人〜8人。
こちらも最低人数と最大人数で差がありますが、6人いると「多いなー!」という印象です。
チェロとともに重低音を支えます。
木管楽器
木管楽器はフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットで構成されます。
人数の問題とは別に心配事といえば、こうした持ち替え楽器でしょう。
学校の部活やプロオケでは楽器の貸し出しをしていたり、自分の楽器をすでに購入し所有している場合が多いです。
しかし社会人のアマチュアオーケストラでは基本的に自分の楽器を持参することになります。

使用頻度が少なくて高価な楽器が必要なときは、謝礼を用意してエキストラを呼ぶこともあるよ!
フルート
編成の小さな曲(後述)は1本しか必要のない場合もあります。ピッコロとフルートを1人が曲中に持ち替えて演奏することも多いです。
オーボエ
フルートと同様ですね。
コーラングレ(イングリッシュホルンとも呼びます)を持ち替え、または独立で使用することもあります。
クラリネット
バスクラリネットを持ち替えすることもあります。
持っていなくて借りたりエキストラを呼ぶ場合もありますが、クラリネットのB管やA管などは2本持っているのがベスト!なぜならオーケストラは吹奏楽と異なり、シャープ系もフラット系の曲も多いですからね。
ファゴット
木管楽器は基本全て2人以上いれば、よく演奏される曲に対応可能と考えておくと安心です。
ファゴットはコントラファゴットを使用する場合もあります。
金管楽器
金管楽器はトランペット、ホルン、トロンボーン、チューバの4種類です。
ホルンは他の金管楽器と比べると割と出番が多い楽器。
トランペットも次の目次で紹介しますが、小編成の曲には参加できないこともあります。
金管楽器はその分、存在感がたっぷりある魅力的な楽器ですね!
トランペット
トランペットよりも小さなコルネットと持ち替える場合もあります。
バロックや古典派の曲には登場しないこともありますが、ここぞという時にかっこよくソロが鳴り響きますね!
ホルン
大編成の曲でなければ4人いれば十分でしょう。
木管五重奏にも1つホルンだけ金管楽器が混ざっていますが、木管楽器のまろやかさと金管楽器の鮮やかさ、どちらの音色にも溶け込みます。
その特徴から、例えばモーツァルトの初期の作品には他の金管楽器がなくとも、ホルンだけは参戦するなどという重宝される楽器の1つでもあります。
トロンボーン
トロンボーンは「神様の楽器」とも呼ばれている通り、バッハの時代は宗教音楽で使用された楽器でした。
オーケストラで使われるようになったのは、なんとベートーヴェンの交響曲第5番になってから初めて!
その後たびたびトロンボーンの出番があるオケ曲が作られますが、3本使用することも多くあります。

キリスト教の「三位一体」の考えから、「3」の数字が縁起が良いと信じられているからなんだよ!
人数にも訳がある、奥深い楽器です。
チューバ
チューバは金管楽器の中で低音を支えるパートで、トロンボーンやバストロンボーンと共にオケを支えています。
打楽器
打楽器はティンパニをはじめ、グロッケン、トライアングル、シンバルなど多彩な楽器があります。
そのため1人が複数の楽器を持ち替えで担当するので、1人では手が回らない時に臨機応変に人数調整します。
作曲家・時代によって変わるオーケストラの人数

ここからは作曲家や時代、曲からオーケストラの人数を実例を交えながら見ていきましょう。
*打楽器はバロック時代からすでにあり、種類も豊富なので割愛します。
*弦5部の12型、14型などの説明は別途、こちらの記事をご参考になさってください。(制作中)
ヘンデル・バッハのバロック時代(~20人ほど)
G.F.ヘンデル(1685-1759)やJ.S.バッハ(1685-1750)(お誕生日の年一緒!)がバロック時代に活躍した作曲家として有名な2人。この時代はオーケストラはすでにあり、管弦楽組曲も多く書かれていました。
しかし一般的に私たちがイメージする大編成のオケとはかけ離れ、弦は各パート2人、管は1人ずつで多くても総勢20人ほどというものだったとされています。
チェロやコントラバスは多くの場合、通奏低音として書かれていました。
またこの頃ははっきりと楽器編成が決められていないものも多く、様々な楽器編成で人数も制限されず自由に演奏されていたのですね。
ちなみに打楽器はこの頃からすでに多く使われています!
②ヘンデル『水上の音楽』
バッハ『管弦楽組曲』はその名から現在では大規模な編成で演奏されますが、バッハ自身はおそらくもっと小規模なオーケストラを想定していたようです。
この時代は「オーケストラというよりも室内楽だ」という意見の人もいるほど、小さな編成が主流だったのですね。
ちなみにヘンデルの『水上の音楽』は稀な例で、お祭り男だったヘンデルが

船上演奏パーティーをしたい!
と思い立ち、50人編成を想定して作った曲だったそう。
ハイドン・モーツァルト初期の古典派初期の交響曲(15~30人ほど)
F.J.ハイドン(1732-1809)やW.A.モーツァルト(1756-1791)は古典派を代表する作曲家として有名ですね。
この頃から通常弦楽器が各パート4人ほど+管楽器オーボエ2人・ホルン2人になります。
ただし長くは続きません。
より後世に生まれたモーツァルトはもちろん、100曲以上作曲したハイドンも5,6曲作ったところで編成をもっと大きくし始めます。
→弦5部(2人ずつ)+オーボエ2+ホルン2
②モーツァルト『交響曲第1番』1764年
→弦5部+通奏低音(チェンバロ、ヴィオローネなど)+オーボエ2+ホルン2
まだバロック時代との離れていないので、通奏低音もありますね。
モーツァルトはピアノというイメージがあるかもしれませんが、普通にチェンバロが生活の中にあったことが分かります。
ハイドン・モーツァルト中期~(~35人ほど)
人数や楽器の種類が少しずつ増えます。
→弦5部+フルート1+オーボエ2+ファゴット1+ホルン2
②モーツァルト『交響曲第25番ト短調』1773年
→弦5部+オーボエ2+ファゴット1+ホルン4
この時代には珍しく、モーツァルトは交響曲第25番でホルンを4本使っていますね!
フルートやファゴットといった定番の楽器がだんだん増えていくのが分かります。
古典派:2管編成(~50人ほど)
ここでついに標準的なオーケストラの編成が確立してきます!
フルート2+オーボエ2+クラリネット2+ファゴット2+トランペット2+ホルン2+弦5部(曲によりピッコロやトロンボーンなども)という構図が作られてきます。
管楽器2本ずつと覚えておくと良いですね!
前の目次で触れましたが、トロンボーンが最初に管弦楽曲に使用されるのは「ベートーヴェン交響曲第5番 第4楽章」が初めてです。
古典派の場合は2管編成でも弦楽器は8~4人ずつ、コントラバスは2人ほどでちょうど良いでしょう。
→フルート2+オーボエ2+クラリネット2+ファゴット2+ホルン2+トランペット2+弦5部
②ベートーヴェン『交響曲第5番「運命」』1808年
→フルート2,ピッコロ1+オーボエ2+クラリネット2+ファゴット2,コントラファゴット1+ホルン2+トランペット2+トロンボーン3+弦5部
ロマン派全盛期:2管編成(~75人ほど)
木管楽器それぞれに、持ち替えとしてピッコロ、イングリッシュホルン、バスクラリネット、コントラファゴットなどが加わることがあります。
金管楽器や弦楽器は1~3人ずつ増えるので、迫力が増していきます。
→フルート2,ピッコロ1+オーボエ2+クラリネット2+ファゴット2+ホルン4+トランペット2+トロンボーン4+チューバ1+弦5部
②ドヴォルザーク『交響曲第8番』1889年
→フルート2,ピッコロ1+オーボエ2,イングリッシュホルン1+クラリネット2+ファゴット2+ホルン4+トランペット2+トロンボーン3+チューバ1+弦5部
ロマン派後期~近代:2・3管編成(90人ほど)
作曲家によってばらつきがありますが、20世紀にはいるとオーケストラの規模が大きくなっていきます。
近代音楽と呼ばれる時期ですね。
→フルート3+ピッコロ1+オーボエ3+イングリッシュホルン1+クラリネット3,バスクラリネット1,小クラリネット1+ファゴット3+コントラファゴット1+ホルン6+トランペット4+トロンボーン3+チューバ2+弦5部+オルガン+ハープ
②マーラー『交響曲第5番』1902年
→フルート4,ピッコロ2+オーボエ3,イングリッシュホルン1+クラリネット4+ファゴット3,コントラファゴット1+ホルン6+トランペット4+トロンボーン3+チューバ1+弦5部+ハープ
この時代、規模の大きな曲を書い作曲家として、特にマーラーやリヒャルト・シュトラウス、ワーグナーが有名です。
ホルンはいっぱい並んでるし、ヴァイオリンは8プルトにもなって迫力満点ですね!
20世紀中盤まで:4管編成、1管編成
さらに規模が拡大し、オーケストラの人数は総勢120人なんてこともざらに出てきます。
5管編成などもありますが、きりがないのでこの辺で!笑

一方でめちゃくちゃな編成も出てきたよ。
→フルート1(ピッコロ持ち替え)+オーボエ1+イングリッシュホルン1+クラリネット2+バスクラリネット1+ファゴット1+コントラファゴット1+ホルン2+第1ヴァイオリン1+第2ヴァイオリン1+ヴィオラ1+チェロ1+コントラバス1
全員で15人。なんと弦楽器より管楽器の方が2倍も多いんです!
音量で絶対負けます。
当時も「こんな変なものは曲じゃない」と大ブーイングだったようです…笑
戦争中:変則的な人数と編成
戦時中は変わった小規模編成の曲が多く作られました。
オーケストラの人数があいまいなので、作曲家によって「室内楽」だったり「小オーケストラ」だったり意見が分かれます。
→クラリネット1+ファゴット1+トランペット1+トロンボーン1+ヴァイオリン1+コントラバス1+打楽器1
例えば兵士の物語は総勢7人。でも通常、指揮者もちゃんといますよ。
なぜこんなヘンテコな編成になってしまったのでしょうか。
それは「戦争で演奏家が足りなかったため」という悲しい現実があります。
まとめ:オーケストラは50人以上がベスト!
ここまで、オーケストラの人数は決まっていないとお伝えしてきました。
ただ、30~40人だと古典派の曲までの編成がやっとなので、団体の方針によっては物足りないかもしれません。
50人いればちょっと弦楽器が足りなくても頑張ればロマン派もいけます。
もちろんプロオーケストラでは、きっちり人数はベストな状態で臨んでいますよ。
オーケストラは人数によって音色や響きが大きく変わる、奥の深い編成。
ぜひ人数の変化も気にして音を楽しんでみてくださいね!