音楽家に起こる職業性(局所性)ジストニアとは?どうすれば治るのか

音楽家に起こる職業性(局所性)ジストニアとは?どうすれば治るのか 音楽雑学
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演奏家・音楽家の皆さん、「ジストニア」という病気を聞いたことがあるでしょうか?

指がある日思い通りに動かなくなってしまった。

弾く時に限って変な力が入る、痙攣する…

いっぱい練習すればするほど悪化する!

こんな症状が出たら、音楽家にとっては悪夢ですよね。楽器を弾くことをやめなくてはならないのか、と人生を大きく狂わせることにもなりかねません。

もしかしたら指があまりにも思い通りに動かないのはジストニアという病気が原因かもしれません!

すでにこの症状が出ている方は本当に困っていらっしゃるのではないかと思います。
私自身はヴァイオリニストですが、指が曲がらず原因を探っている間に見つけた病気です。
症状は異なりますけれども、初め知った時は驚きを隠せず夢中で調べた経験があります。

ぜひ最後までご覧になり、治すひとつの手がかり・予防法となれば嬉しいです。

ジストニアには種類がたくさん!症状は?音楽家はどれ?

ジストニアは大きく2つに分けて、

・全身性ジストニア
・局所性ジストニア

があります。

全身性ジストニア

全身性ジストニアはその名の通り、全身に起こる症状が特徴です。
無意識のうちに手や足などの震えから始まり、やがて体幹にも影響が出て変な姿勢や歩き方が持続するようになっていきます。

こちらは遺伝性の病気であるため、ほとんどが小さな子ども時代に発症します。
もう1つは、長期間にわたって抗精神病薬を飲むことで「遅発性ジストニア」として全身性ジストニアを発症する原因になってしまうといわれています。

局所性ジストニア(職業性ジストニア)←演奏家がなりやすいもの

局所性ジストニアは音楽家がなりやすいジストニアの症状です。

過剰な回数のまばたき、目の刺激、歯ぎしり、首が左右に揺れる、首が変な方向に曲がってしまう
→20代~60代と幅広い年代の大人で発症しやすいです。一般的な人誰にでも起こりうる症状。
指・手・手首・腕・声帯・口などが震えてしまう、コントロールが効かない
痛くない・休んでもよくならない
→よく動かしている部位に起こる。演奏家が悩むのはこちら!

身体に出る場所、発症する年齢によって自分の症状が演奏によるものなのか・遺伝性のものなのかを区別することが出来ます。
特に音楽家は後者の方をチェックしてくださいね!

ピアニスト、ヴァイオリニスト、木管楽器の方は早く・継続的に指を動かす運動を繰り返すので、手に症状が出ます。
特にピアノやヴァイオリン奏者はジストニアになってしまう方が多いので近年注目されています。
ヴァイオリニストは左手だけでなく右手にも症状が出ることもあるそうです!

音大生では100に1人がジストニアの経験があると答えたデータがあります。
(参考:音楽大学生における音楽家のジストニアの実態調査)

一方、ホルン、トランペットなどの金管楽器奏者は唇が震えてしまったり、声楽家は声帯、つまり喉に症状が出て声がうまく出なくなることがあります。

反復運動を繰り返すことがきっかけであるため、局所性ジストニアは別名「職業性ジストニア」または「フォーカルジストニア」とも呼ばれるのですね。
音楽家に起こるジストニアとは、演奏時に特有の動作をした時にのみコントロールが効かなくなるもの。

もしも症状が出るのが決まって本番の時だけである場合は、緊張からくる自律神経の問題の可能性があります。
ここまで読んで「自分は緊張なのかな?」と疑問を感じた方は、こちらの記事も読んでみてくださいね!

演奏会本番で緊張するのはなぜ?思わぬ落とし穴が!対策をヴァイオリニストが徹底解説!
演奏会当日はもちろん、前日から不安と緊張で夜も眠れない…本番に弱くて、毎回緊張してしまうのはなぜ?いざコンクールで弾こうとすると指が震え...

作曲家・ピアニストのシューマンもジストニアだった?!

音楽家に起こる職業性(局所性)ジストニアとは?どうすれば治るのか

ロベルト・シューマン
Wikipediaより引用(パブリックドメイン)

クラシックの演奏家なら誰でもご存じ、あの有名な作曲家「ロベルト・シューマン」もジストニアに悩んだといわれています。
シューマンは作曲家ですがピアニストを志していたことはご存じでしょうか?

「テクニックの練習をしすぎて、右手がだめになってしまった」
―Wikipediaより引用(ロベルト・シューマン – Wikipedia)

一説では練習時にシューマンが開発した機械を使ったことで故障してしまったとあります。
同時期にパガニーニの超絶技巧の演奏を聴き、大きな影響も受けたようです。
いずれにせよ、無理な練習がジストニアを生んでしまったのかもしれませんね。

シューマンはその後作曲家として生きる意向を固めました。
そこで小指をあまり使わないで済むような曲を考え、自分で弾けるようなバリエーションも多く残しているんですよ。

演奏家が悩む、ジストニアの原因は?

音楽家に起こる職業性(局所性)ジストニアとは?どうすれば治るのか

ここからは音楽家の局所性(職業性)ジストニアにフォーカスを当ててお話していきます。

ジストニアの詳しい原因は、残念ながら未だ解明されていません。

昔は繰り返し練習するほどコントロールが効かなくなることから、ストレスなど精神的な原因ではないかと考えられていたようです。
もちろんそれも1つとしてあり得るでしょう。

しかし今は色々な原因が考えられており、分かりやすくいえば「脳や神経の誤作動」という説が有力です。

同じ動きを何度も繰り返すことで、小脳は運動記憶としてインプットされます。
考えなくても手が覚えている、無意識に指が動くという状態ですね。
こうして音楽家は脳の特定の分野が発達し、手と密接に関連付けられていくことが研究で明らかになっています。

ただし脳には「可塑性かそせい」と呼ばれる特性があります。
繰り返し同じ運動を叩き込み負荷をかけることで、神経細胞が形状記憶して戻りにくくなるんです。
これが癖となり、変な運動も一緒に覚えることにもなるのですね。

この脳の特性、神経に加えて精神的なストレスなどが負荷となり、神経の伝達になんらかの誤作動が起こってしまうものと考えられています。

診断を受けるときは腱鞘炎やオーバーユース、ストレスと診断される場合も多いようです。
そのため、病院は出来れば神経内科、または整形外科を訪ねるのがおすすめです!

音楽家のための、フォーカルジストニアの治療方法

治し方の決定打も、現時点では残念ですが確立されていません。
しかし治る人、良くなっていく人はたくさんいて整形外科や精神科など、多方面からその様々な方法が考案されています。

①まず悪化させない!

音楽家に起こる職業性(局所性)ジストニアとは?どうすれば治るのか

音楽家は練習熱心で真面目な人であるほどうまく弾けないのは練習不足のせいだ」と自分を責めてしまいがちです。

健康であっても、調子が悪い時にはなんだか指が回らないことがありますよね。
そのような時は何度も同じパッセージを反復練習したくなります。

いわゆるこの「オーバーユース(使いすぎ症候群)」の状態と同じような心理が働くため

うまく弾けない→繰り返し練習→筋肉が疲れる→さらに弾けなくなる→自分が嫌になる

という構図に演奏家は陥りやすいのです。

ジストニアとオーバーユースが違うのは「休んで回復するかどうか」です。
ジストニアは休んでも手の意識しない動作や違和感が無くなりません。

1度練習をストップすることでジストニアかもしれないと自覚するきっかけにもなります。

一般的な整形外科に行くと「まず数日間弾かずに休みましょう」と言われることもあります。
そうはいっても数日間全く練習しないのは演奏家ならあり得ないすよね…!

・15分演奏したら5分休憩する
・同じパッセージや難しい技術を反復練習するのではなく、様々なアプローチで練習する

など、小休憩を挟みながら練習をすることが悪化させない・またジストニアと気付くポイントなんです。

②薬・ボツリヌス注射

音楽家に起こる職業性(局所性)ジストニアとは?どうすれば治るのか

一般的にジストニアの治療には最初、局所麻酔薬や注射を行われるそうです。
注射はボツリヌス菌が作るタンパク質の薬を筋肉に注射することから、ボツリヌス療法ともいいます。

この治療を行うと筋肉が柔らかくなる効果があり、限定的ではありますが筋肉のこわばりやつっぱりが改善されて症状が改善されるのです。
効果の持続は数ヶ月ですが、この間に合わせてリハビリ(運動療法)をすると効果的に治しやすくなります。

検討している方はよく医師と相談して決めましょう。

③リハビリ(運動療法)

リハビリは手術を受けた後にするものというイメージがありますが、そんなことはありません。
今まで力でゴリ押ししてなんとか弾けていたものが、身体の歪みを取って正しい手の使い方を知ることで無理せず弾けるようになるのです。

つまりジストニアを治すと同時に、治った後も再発防止することが出来るのですね!

なるべく音楽家の手に詳しく、理解のある病院に行くことをおすすめします。
趣味で楽器演奏をプロフィールに書いている医師もいるので、探してみると良いでしょう。

整形外科や神経内科などの病院はリハビリ施設が無い場合があります。
リハビリテーション室が併設されているか確認しましょう!

また同じような効果のある治療院に、整骨院・カイロプラクティックなどがあります。
カイロプラクティックは自費ですが、整骨院は原因がはっきり分かっていれば保険適応となることもあります。

病院では1回につき治療が15分ほどのところが多いですが、もっとしっかり施術を受けたい人はこちらも検討すると良いですよ
しかしレントゲンや病名を診断出来る資格があるのは病院のお医者さんだけ。
1度病院でレントゲンを撮ったり原因を見極めてもらってから行くことをおすすめします。

④精神面

音楽家に起こる職業性(局所性)ジストニアとは?どうすれば治るのか

音楽家がジストニアを発症する前兆や時期は何かしらあるそうです

例えばこの2つは反対の感情がありますよね。
「楽しくてついついのめり込んで練習をやり過ぎてしまう」
受験やコンクールのためにどうしても難しい技術を身につけなければならない」

ただし練習を繰り返したくさんするという面では同じですね。

大切なのは知らないうちに「とにかく練習しまくって出来るようにする」という効率の悪い練習方法をしていることに気付くこと!

楽しくて仕方がなくても身体や脳にはストレスがかかっています。
プレッシャーももちろんストレスになるだけでなく、失敗するのではないかという不安から思い通りにのびのび弾けなくなることもあるんです。

こうした感情は無意識に身体が感覚として覚えてしまい、同じような演奏場面で起こるようになります。
最初は速い下りのパッセージだけ動かなかったのが、上行形の音形でも自分では気付かないうちに失敗するのではないかと身構えることで、動きにくくなってしまう。

そして失敗が度重なることで、いつの間にか不安を感じるだけで症状が出ます。

「パブロフの犬」はご存知でしょうか?
犬にメトロノームを聞かせる→餌をあげる→犬は食べると唾を出す
この一連の動作を繰り返すことで、犬は餌を食べなくてもメトロノームを聴くだけで無意識のうちに唾が出るようになるという実験です。

これと同じようなことがいえるのではないでしょうか?
私は練習を通して、間違えた身体の感覚を覚えるパターンにつながっているのではないかと考えています。

これを断ち切る1つのヒントが次の方法です!

ジストニアには「アレクサンダーテクニーク」を取り入れよう

アレクサンダーテクニークとは、身体の良い使い方を学び、感覚を最大限に活かして演奏に役立てる方法です。

元々身体の感覚に優れている人は、例えば「ヴァイオリンを構えるときは鎖骨に乗せて弾くんだよ」と教えてもらっただけで初心者でフォームは多少ずれていても、身体に無理のない楽な姿勢で持つことが出来ます。

これが鈍感な人は首を捻じ曲げて肩を上げて楽器をギューっと挟んで持つかもしれません。または肘から先の筋肉だけを使って持つかもしれません。
でも鈍感で気付いていないため「力を抜いて」と言われても「別に力入れてないしリラックスしてる」と思うわけなんです。
私はまさにこれです笑。

楽器に関係なく、日常生活の「腕を上げる」という動作自体が全て肩から力を入れて腕を上げているかもしれません。

そう、まず不要な力と必要な力を理解して自分の状態に「気付く」ことから始めるのです。
最小限の力で最大限の効果を出せるのが1番身体にとって良いですよね!

そのためには何が無意識的に自分の動きを邪魔しているのかを知っていきましょう。
気になった方は講座やレッスン、本などがあるのでぜひ見てみてくださいね。

アレクサンダーテクニークでなくとも、自分自身で解剖学を少し学んでみたり、左右の体のバランスをチェックしてみたりと出来ることはたくさんあります。

音楽家が1人で試せるジストニア改善方法

スプリントやサポーターを巻く

指の場合、うまく指が動かない(ジストニア発症)時に他の指が反対の動きを起こす場合があります。
例えばジストニアである小指が丸まってしまう状態の時、中指はピンと突っ張ってしまったりフックのように不自然な形になったりします。

この反対の動きをする指は代償指と呼ばれています。

人によって個人差はありますが、もしこの症状があれば病院では代償指にスプリントという動きを制限する装置を付けてリハビリをすることがあるそうです。
無い場合は指用のサポーターでも構いません。

自由を制限することでジストニアの指も筋肉の変な緊張がなくなり、改善していく様子がみられたという話があります。

微弱な電流や低周波治療器を活用する

低周波治療器は近年家電量販店や通販サイトで誰でも気軽に買えるようになりました。

これを自分の肩や手のひら、腕など気になる部分に使用するとコリが取れて自由に動かしやすくなります。
続けていくとジストニアの症状改善にも役立つそうです。

また「tDCS」という電流装置があります。
こちらは頭に装着する治療器具で、弱い電流を流すことで脳に刺激を与えて神経の流れに変化を起こします。

本来は脳卒中に多く使用されている治療器具ですが、フォーカルジストニアの音楽家に使用してリハビリを行ったところ、大きく改善していったそうですよ!
脳神経に刺激を受けたところに正しいパターンを覚えることで、新しい演奏の仕方が上書きされるのですね。

もし気になる方は医師に相談してみるといいでしょう。

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